必要人員と賃金

クリニックの運営は、医師の腕だけでは成立しません。

看護師はもちろん、受付や事務、場合によっては助手や検査技師など、スタッフの総合力とチームワークで成立します。

診療科目や内容によって必要となるスタッフの人員数は異なりますが、事業計画書を策定した際に、診療を円滑に進めるための必要人数と賃金については概要を決めているはずです。

開業後にスタッフ問題(開業後の悩みの一つ)が起きないようにするために、近隣の医療機関の賃金情報を詳細に調べ、引けを取らない適切な賃金を設定し、優秀なスタッフを採用できるようにしましょう。

今までは、診療と患者様だけに集中していれば良かったのですが、開業後は経営者として、不満を抑える工夫をを施しスタッフにも気を遣わなければなりません。

 

求人方法

有料求人サービス、無料求人サービス、ハローワーク、自院のホームページ、新聞広告・折り込みチラシ、ポスティング、SNS等を通じて、募集をかけます。

その際、今までに一緒に勤務したことがある方にお声がけするのも一考です。

どの媒体にどう求人広告を出すか等は、クリニックの地域性や専門性などを考慮して計画を立てることが大切です。ただし、スタッフが集まらないと開業することがままならないことから、リスクヘッジのために一つの媒体だけでなく複数の媒体を使い、求人募集行うことが通例です。

また、スタッフ採用活動は開業後も行うことがあるので、どの求人媒体が最も有効であったかを測定し、次回以降に繋げるようにすることも大切です。

 

就業規則

採用後の就業規則等は、法的には設定が必要のない規模のクリニック(労働者10人未満)でも、募集や面接を行う前に文章化しておくことがおすすめです。

人事労務に関する取り決めは、よい職場づくりのはじめの一歩です。面接で応募者から口頭で確認をされた際なども、慌てずに回答できるでしょう。

厚生労働省労働基準局監督課の「モデル就業規則」を参考にし、診療方針や経営理念についても、明文化して、共有できるようにしておきましょう。

診療方針等は、常に医師やスタッフ間で意見のすり合わせ・再確認しあうことが、開業後の実践に繋がるためには重要となります。

日々の仕事への姿勢やクリニックの色・雰囲気を保つためにも、わかりやすく伝えられるようにしておくことが重要です。

 

応募書類・面接セッティング

履歴書等を整理した後、一緒に検討し書類選考をします。

面接の時間設定は、応募者の面接時間割をあらかじめ調整することが重要です。

とても簡単なことですが、初めてやろうと思うと、なかなか時間の調整がつかず、何日にも分けて面接することとなってしまいます。

その結果、印象が薄くなってしまい、後のほうに面接した人か、優秀ではないにしてもインパクトの強い人を採用することとなってしまいます。

書類選考後は、面接会場を押さえておきましょう。

開業時の採用では、クリニックの場所を使えないことが多いので、クリニック近くの貸会議場を確認しておきましょう。

会議室を借りる場合は、面接者を迎えるスペースがあるか、面接者の待機スペースはあるかなども確認しておきましょう。

通常、医療事務職へはたくさんの応募がありますので、年齢や経験の偏りがないように選んで、できれば最低10人程度は面接しましょう。

一方、看護師は人手不足で応募者が少なく選べないというのが現状ですから、出来る限り早期に募集をかけて、いい人がいれば採用する、というスタンスでいたほうがいいでしょう。

面接のセッティングの一番の肝心なところは、日時の設定です。

応募者は現在勤務中の方も多いですから、勤務に差し障らないであろう日時を設定します。また、現在の勤務状況によっては、たまたまその日に時間が取れないということもあるので、予備日もセッティングします。当然、先生の時間もゆっくりと取れる日を選定します。

面接セッティングは、開業後のクリニックの命運を左右する仕事です。

開業の2ヵ月程度前に採用決定通知書を出すためには、開業の3ヵ月前迄には面接日をセッティングしましょう。

このスケジュールで進んできて、このままでは色々間に合わないかもしれないと感じたら、思い切って開業日を1ヶ月程度延期してください。

焦って、適当な体制で開業してしまうくらいなら、1ヶ月休んでも優秀な人材を確保し、十分研修をした上で開業できる方が後々のよい結果につながります。なぜなら、後からいい人を採用するのは、開業時以上に難しく、適当な体制による開業後のストレスは、長く響くことになります。そしてそれは、診療報酬の伸びにも大きな差となって表れるからです。

 

面接

看護師・医療事務・技師等の採用面接は初めてというドクターが多いでしょう。

実際に立派な経歴を持っているのに、面接の場で会ってみると、とても患者様の前に出せないと思われる人が面接に来ることも稀にあります。

応募書類だけでは分からないので、初心に立ち返り、どんな開業を目指されているのか?どんな診療を考えているのか?それにぴったり当てはまるスタッフを面接で選びましょう。

面接を行う前に質問事項をまとめておくとスムーズに進みます。

☆押さえておきたい質問事項

  1.  何で前職をやめたのか(辞めようと思っているのか)?
  2.  働き方は?(フルタイムか?パートタイムか?週何日可能か?残業は可能か?)
  3. 健康状態は?
  4. 家族構成は?
  5. 長所と短所は?
  6. クリニックで働くうえで大切にしたいことは何ですか?
  7. 使えるパソコンのソフトは?これまで経験してきた会計ソフトは?
  8. 看護師さんの場合、これまでどのように働いてきたのか、具体的に聞きましょう。
    診察補助だけだったのか、検査や血液採取、点滴や注射だけでなく、レントゲンの準備までやってきたのかなどを細かく確認して下さい。
    先生ご自分が求める理想の医療にはどのようなサポートが必要なのか、そのためには看護師さんにはどの程度の能力を求めるのか、きちんとした判断基準を持っておきましょう。

☆NG質問事項

  1. 結婚の予定は?(未婚の場合)
  2. 出産の予定は?(既婚者の場合)
  3. 前職のお給料や前職を辞めた理由を聞きすぎることも、できれば避けた方がいいでしょう。
    履歴書と質問表だけだとメモしか残らず、選考で迷った時に客観的な資料がないこととなってしまいますので、自分なりのNGポイントを前もって挙げておき、評価を数値に変えて残せる採点表の事前作成は重要です。

面接の時間は、応募者が被らないように時間調整が必要です。

実際の面接は30分程度でも1時間に1人くらいの余裕をもった時間設定をしましょう。

貸し会議室で行う場合でも、面接者を迎える人(出来れば女性)は必要です。

クリニックのスタッフは女性が中心ですから、面接者の立ち居振る舞いや雰囲気等、男性目線と女性目線、両方で見てみると違った印象を受けることが多いものです。

面接の待ち時間には、簡単なアンケート用紙等に、直接記入をしてもらうこともおすすめです。

文字は人を表すと言いますが、見た目や履歴書の内容では判りにくい、その人の性格等を感じ取ることができると思います。

面接をする先生は、できれば会議室で待機して、応募者が部屋に入ってくるところからチェックするようにしましょう。

スタッフの面接は先生が行うとしても、クリニックの経営のためにも患者さん目線で面接してもらうことが出来るので、複数人(女性社労士を紹介いたしますので同席が望ましい)に入ってもらうことをお勧めします。

入室したら3分以内で自己紹介(支離滅裂な自己紹介にならずに、自分の長所・短所を含めて簡潔に自己紹介できるかをチェック)をしてもらいましょう。

面接は相手を見るだけでなく、どのようなクリニックを作りたいか、という先生のお考えを説明する場でもあります。

先生がどんなクリニックにしていきたいかを説明するときには、相手の話をきちんと聞けるか、目を見て話せるかは、患者さんに安心感を与えられる対応ができるかどうかを判断する重要な材料ですので、面接者がどのような表情で聞いているかも注意深く観察しておきましょう。

職業的に優秀で、人柄がよく、コミュニケーション能力の高い人と働きたいのはもちろんですが、院長の診療方針・経営理念・豊富・理想・クリニックの将来像といったビジョンをよく理解し、納得した上で、力を発揮してくれる人であるかを見極めることが大切です。

質問事項に基づいて面接を行いますが、面接時のこちら側の態度もとても大切であり、面接を受ける方もよく見ているものです。

せっかく優秀そうな方を見つけて、内定の打診をしても、こちらの対応の仕方が悪く、内定を辞退されたりすることも想定されます。また面接に来る方は、医療事務職を中心に特に地元の方が多く、面接時の対応で悪い口コミを流されたり、場合によってはネットに書き込まれたりすることなども想定されます。

面接のために足を運んでくださり、お時間をいただいてるという気持ちで接することは、とても大切なことです。

また、採用条件の説明は必要です。

勤務時間、休診日、社会保険関係の有無など最低限のものについては、見ながら説明できるように紙にまとめておくといいでしょう。

第一印象も採用を決める上では重要ですが、容姿だけで判断することないようにすることも大切です。

 

結果通知

就職を検討して面接に来た方は、他のクリニックにも応募されている可能性がありますので、スタッフの採用が決定したら、まずは先生が電話で連絡をし、なるべく早く(遅くても開業の2ヵ月程度前)採用通知を出しましょう。

こちらで良いと思うスタッフは、他のクリニックでも採用したいと思う人材ですので、決定通知は早めに出さないと他に採用されてしまう可能性があります。

その際、面接時に提示した採用条件については了解しているかどうか、もう一度確認してから、次回の面談日を決めてください。

正式な採用条件については次回の面談日に提示して判断してもらいますが、正式に採用が決定したら、内定通知書をお渡しして、退職の手続きに入ってもらいましょう。

すでに退職されている方は問題ないのですが、転職を考えている方は、勤務中ということもあります。円満退職してもらうためにも、採用決定し、早めに退職に向けた準備を進めてもらうことが必要です。

その後、スタッフの顔合わせも兼ねて、できるだけ早い時期にクリニックに集まってもらうといいのではないでしょうか。一緒に働く仲間ですから、どんなクリニックになるのか、工事の段階から見てもらうと愛着も沸いてくるものです。

その際、工事が間に合うのであれば、スタッフが使用するロッカーや休憩室などについて、要望を聞いておくのもいい関係を結ぶための一つの手段になるかもしれません。

不採用とする方への心配りは、採用以上に注意が必要です。

応募される方は、比較的開業予定地のお近くにお住まいの方が多いと思います。不採用とした時に、納得してもらえないと、批判勢力を作ってしまうことになります。

評判をとろうと開業するのに、不評を買ってはつまらない話です。

不採用の通知はやはり文書によることになると思いますが、クリニックの批判勢力を作らないためにも、500円分程度の商品券やクオカード等を同封し、定型文でなく、出来ればご自身で考えた文面で連絡すると、受け取る側の印象も違うものです。

 

スタッフ研修

スタッフを雇い入れたら、内覧会の日から逆算して3週間前には開業前スタッフ研修を行いましょう。

各々にキャリアを積んできていたとしても、新しいクリニックでの作業やレイアウトに慣れる必要がありますし、全員のチームワークを成立させるためにも、個別研修だけではなく、実際の診療時間を想定した研修などが行えると望ましいでしょう。

その際、相談して必要な医療備品・消耗品・事務用品等を発注してもらいますが、ユニフォーム(白衣・制服・サンダル等)は、スタッフ同士が楽しく選べるように任せて置きましょう。

研修期間には診察シミュレーションや患者さんへの接遇マナーのほか、医療機器・電子カルテのレクチャー、衛生講習、個人情報保護に関する講習などを行います。

特に接遇マナーについては、マニュアルを学習してもらうのではなく、患者さんへの接し方や言葉遣いなど、基本的な部分を客観的に確認しておいたほうが安心です。

多くの患者さんからは「クリニックのスタッフの印象=クリニックへの印象」として受け止められ、受診時の満足度に直接反映されます。

電子カルテ・医療機器に関しては、各々の会社のインストラクターが来て、院長先生、スタッフの方々に別々で指導をしてくれますが、電子カルテの入力を使いやすくするために、電子カルテ会社とは事前に処方セット・検査セット等を作りこんでおきましょう。

電子カルテの研修の際には、患者さんの保険証忘れや、お財布忘れなどの際にどのような対応をするかを決めなければなりませんが、会計業務にも影響しますので、対応が分からなければ顧問税理士に聞くことも必要です。

そして、スタッフ研修で大切なのは、クリニック内のマニュアル作り・ルール作りを少しずつ行っていくことです。

一般的に、クリニックにはマニュアルがないため、ノウハウが人の中に蓄積されるだけとなってしまうので、人の入れ替わりがあってもノウハウがスタッフ間で継承できるようにしておかないと、経営に支障をきたすこととなります。

できるだけ早く着手し、スタッフのミーティングで対応を標準化して、後輩の育成に役立つマニュアルを作る協力を依頼されることをお勧めします。

何より、研修を丁寧にきめ細かに行うことは、「自分はよいクリニックのメンバーである」というスタッフの自覚や意識づけにも役立ちます。これは、開業後の仕事の質やモチベーションを保つことにもつながる、大切なポイントといえるでしょう。

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